「第10回世界料理学会 in HAKODATE」レポート【2日目】
9月13日(火)、「第10回 世界料理学会 in HAKODATE」の2日目です。
まずは、青森県弘前市「レストラン山崎」の山崎隆さんによる歌からスタート。これは、毎回のお約束です。
学会ではギャグ連発ですが、弘前のレストランへ行ったとき、シェフにご挨拶するととても真面目なお方でした。前の学会で聞いた漬物の話が面白かったことなど思い出されました。
さあ、場も和やかに2日目の始まりです。
1. 函館「レストランバスク」深谷 宏治さん 「生き方から滲み出た、私の料理と経営」
ここであらためてですが、この学会を立ち上げたきっかけとなる深谷シェフの講演です。
函館出身の若者が上京し、60年代安保闘争の頃、洋食の料理人をめざして放浪の旅へ。やがてバスク・サンセバスチャンに流れ着き、このまちとの「運命の出会い」が人生を大きく変えることに。
前日に講演されたスペインのフェデリコ・パチャさんの師匠でもあるルイス・イリサールのもとで修業し、帰国する際に「東京に行くな、自分の故郷で店をやれ」と言われたことで、函館でスペイン料理のレストランをオープン。
フェラン・アドリアの料理が「革命」だとすれば、深谷さんの料理は「改革」だとおっしゃっていました。
道南の食材を使ったバスク料理は、まさに函館の「レストランバスク」でしか味わえないもの。そして、今ここで学会が行なわれていることが函館の歴史の中でも独特な流れをつくっていることに感動を覚えました。
2. 東京 南雲 主于三さん 「スピリッツ&シェアリング」
以前の学会でも話題となったカクテルの専門家・南雲さんによる講演。これまで学会になかった「化学」を「味覚」として解き明かす、画期的な講義は今回も評判でした。
「カクテルとは固有の文化を生かしたもの」と語る南雲さん。ファッションではなく、本質としての「日本のカクテル」を確立すべく、日々研究をしています。
バラを表現したカクテル、肉系のカクテルなど、どれも斬新なものばかり。コロナ禍もまたじっくり研究ができる時間が持ててよかったと前向きな発言。止まることを、思考する時間ができると考え直せること、それがさらなる成長につながっているのです。
3. 三重「志摩観光ホテル」樋口 宏江さん「御食国みえの食材を新しい一皿に~伊勢志摩ガストロノミー」
この函館の料理学会をきっかけに、日本各地でも料理学会が行なわれるようになりました。今年は三重県でも開催されるとあり、「伊勢志摩ガストロノミー」について樋口料理長がお話になりました。
三重県のホテルで連綿と続く伊勢志摩ならではのフランス料理、その歴史と食材、料理の紹介。伊勢神宮のある三重を「御食の国」として、神人共食など地域ならではの独特な考え方を聞かせていただきました。
自ら訪ねる生産者の食材、重要無形文化財である海女によって得られるアワビや伊勢海老など自然の恵みに感謝し、それを皿の上に届けたいという樋口さん。それが三重でしか味わえない一皿をつくりあげています。
よく女性のシェフとしてと聞かれるが、働いてきて「女性として」という気持ちはないという言葉も印象的でした。まだまだ男社会の料理界のようですが、わざわざ「女性シェフ」と言われなくなる時代が来るといいなと思います。
4. 大阪「ミチノ・ル・トゥールビヨン」道野 正さん × 東京「ル・マンジュ・トゥー」谷 昇さんによるトークセッション
プログラムではトークセッションのはずが、なぜか道野さんの独演会に。第1回からの常連・谷シェフから、第8回の学会に誘われた道野さん。以後、この学会の常連になりました。このコロナ禍で大変だったところから、自宅で再現できるフレンチのフルコースを生み出した体験談を語られます。
途中でパティシエールのマダムが登場し、「話が長い!」と今度はマダムが食材探しの旅のお話を。
どあれ?トークセッションじゃないの??と大きなハテナマークが浮かび上がったまま、最後の最後に谷シェフがご登壇。
「サステナブルなんて興味ない」など、あいかわらずの谷さん節が痛快に響きます。もうこれも学会の恒例で、楽しみのひとつでもあります。
「46億年の人類の歴史で、食うことだけは変わらない。料理人としてここにいる意味を考えれば、自然と謙虚になれる。歴史を顧みない人はダメだ」としめくくり、終了。
けっきょく、トークセッションではありませんでした(笑)
こういう自由さも学会の毎度なところ。そして、学会でしか見られないところなんです。
<ランチタイム>
ここで時間が延長となり、ランチタイムとなるのですが、ランチの合い間も実はトークセッションが。おもしろいセッションとなりましたので、1日目のトークイベントともに別途レポートします。
5. 新潟・三条「Restaurant UOZEN」井上 和洋さん 「狩り、漁、自然(表記はフランス語)」
予約が取れないと評判の新潟のレストラン。紹介者は料理専門の編集者として活躍されている柴田書店の木村真季さん。もちろん第1回から学会を支えているひとりです。料理界も何も無知な私にとっては、尊敬の一言しかありません。
オーナーシェフの井上さんは香川県出身、東京で腕を磨きますが、妻の実家である新潟に移住したことで、自然豊かな地で狩りをしながら料理をするワイルドな生活に一変。
時には猟犬とともに獲物を追い、時には海に出て釣りをする。「命をいただく」という根本的なことに立ち返り、本当に美味しいものを追求しつづける料理人です。
1日目の「アグリスケープ」吉田シェフと共通するところがあるなと思っていたら、後で吉田シェフから「井上シェフがお店に来てくれたんですよ」と聞きました。
食材をきわめていくと、すべてを余すことなく使い、食べていただくことにつながる。そのことを実践しているシェフたちの姿はとても頼もしく感じました。
6. 和歌山「オテル・ド・ヨシノ」(→東京「シェ・イノ」)手島 純也さん「日本人が日本で作る純フランス料理」
東京の名店「タテルヨシノ」料理長を経て、和歌山「オテル・ド・ヨシノ」の料理長に。そして、この10月より名店「シェ・イノ」へ移籍することになった手島シェフ。実は20代の時に修業した「シェ・イノ」で再び料理長として厨房に入ることに。
フランス料理界では47歳は若手と呼ばれる方らしいのですが、手島シェフが大切にしているのはクラシックなフランス料理。新しさや個性を主張する料理より、先人がつくった料理に魂が震えるような感動を覚え、圧倒的な陶酔感を得られたそうです。
創作料理ではなく、昔から伝えられる伝統的なフランス料理を守っていきたい、それは「自分が本当に美味しいと思うから」というゆらがない考え方に、こういうシェフがフランス料理界を継がれていくのはいいなと実感しました。
柴田書店から出している著書「王道の追求」もぜひご一読ください。
そして2日目の最後であり、学会の最後を飾るのは、レストランバスクで修業した後で南米に移住したという異色の経歴の持ち主、大野剛浩さんのお話です。
7. アルゼンチン 大野 剛浩さん&マルティン赤嶺さん「南米飲食業界の改革と、日本人として伝えたいこと。」
大野さんの肩書に店名がないのは、大野さんが「コックコートは脱ぎ棄てました」と料理人を辞め、日系人のマルティン赤嶺さんと新たなステージへと向かったから。
二人は料理人の労働環境に取り組み、オーナーとの意識のちがいを調整、さらには障がい者が厨房で働けるようにするには、など、様々な挑戦をしています。
このことは日本でも同じなのでは?と思いました。実現可能、持続可能になれば世界中のレストランが働く人にとってもよりよくなるはず。
料理人の話だけでなく、経営者側からの話、環境の改善という話が最後に聞けて、またひとつ学会の進化を感じました。
もうすぐ始まるサッカー、ワールドカップになぞらえ、
「ゴールが決まれば、料理界のチャンピオンになれる」
という力強い言葉でしめくくった大野さん。
かつての弟子の異国での奮闘、深谷シェフも思うところが大きかったでしょう。
最後はすべての料理人と記念撮影、そしてスペインのフェデリコ・パチャさん、アルゼンチンの大野さん・マルティンさんとともに。
まさに「世界料理学会」にふさわしい国際的なつながりを見せ、これもまた深谷さんはじめとする人と人のつながりによるもの。
この人と人とのつながりと、本当に大切なものに向き合う料理人の熱意、そして継続していく覚悟、これが函館の料理学会が他の追随を許さないところなのかもしれません。
毎回思うことですが、他にはないこの学会が料理にかかわるすべての方に見に来てほしいし、観光で来る人にとっても厨房の中で黙々と働くシェフたちの声がきけてとても面白いので、ぜひ見に来てほしいなと思います。
次は一年半後、2024年4月予定です。
(編集長)
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